バラナシ

バラナシ バラナシはパトナから270km、ブッダ覚成道の地ブッダガヤから251kmの北西に位置し、聖なるガンジス河と、その支流であるヴァルナ川、アシー川に挟まれた地帯である。昔はカーシー国と称し有名であった。
人口およそ350万人のバラナシ(ヴァーラーナシー)は、近年まで英領時代の訛でベナレスと呼ばれていたが、近年の傾向であるサンスクッリトの復古調に習って、再びバラナシ呼ばれるようになった。
ヒンドゥー教7大聖地の随一で、2000有余の神殿があるので、1年中何らかの神々のゆかりの祭日がある。
ガンジス
ガンジス河の岸辺には、バナラシだけでも大小およそ80余りの階段状のガート(沐浴場)が西岸に並んでいる。
ガートは水面に降りていく石段になっていて、雨期に増水してくると石段は次々と水の中に没してゆき、雨の少ない10月以降5月までの乾期には減水につれて石段が姿を現す。
その降り口付近には、インド各地から訪れるヒンドゥー教徒が早朝から来て、手持ちの品物をバラモンたちに預けて脱衣し、ガンガーの流れに浸り、ガンガーの水を両手にすくって捧げては祈り、口をすすぎ歯を磨く。そして水のなかで顔を洗い東方に昇る御来光に向かった合掌礼拝する。祈りを捧げる光景は夏季・寒季も関係なく、まさに、ヒンドゥー教のクライマックスの姿だ。

死者の弔いもガンガーで行う。
インドでは日本の葬式のような柩の前で読経などの特別な儀式はなく、モッコの上に死体を動かぬようにくくって、その上を生花で飾り火葬場まで運ぶ。その行列が葬式である。
死体を水際に近いガートの上に置き、ガンガーの水を含ませるか、または頭から体にふりかけて女神ガンガーの祝福を受けさせ、薪の上に安置する。
女性の死体は赤布で、男性は白布で覆う。乳幼児や妊婦、事故や病死した者は火葬はせずに、死体が浮かばないように石の重りをくくりつけて、そのまま流してしまう。

ガンジス河 ガンジス河(恒河)は、ヒマラヤ山脈から東南に流れ、広大なる平原をつくりながらベンガル湾に注ぐ、全長240kmに及ぶ大川である(地勢上、中流にあるバラナシでは迂回して北の方に向かって流れている)。
北方にはヒマラヤ山系が遠望される。それは、ガンジス河の女神ガンガーが、両親であるヒマラヤの山神に対する最後の敬虔なるお別れの挨拶の場所だ。
上流のアラハーバードのガンガー、ジャムナー、サラスヴァティーの三川の合流点サンガムと共に、バラナシのガンジス河畔がより清浄に神聖視される所以である。

女神ガンガーとバギラータ王
叙事詩ラーマーヤナによると、ヒマラヤ山系ヒマーワンとその妃マノラマには、2人の清純な息女があった。長女の名をガンガー、次女の名前をパールヴァティーといった。
ある年のこと、山神ヒマーワンはガンガーを使節として天上界に遺わした。
ガンガーは神々の世界である天上界に逗留し、清浄なる水の神として、地上で神々を敬いながら聖なる生活に努めた人々の死後の灰を洗い清め、そうした人々を天上界に再生させていた。
その頃、シヴァ神の最初の妻サティーの生まれ変わりである次女のパールヴァティーは、ヒマラヤ山中に修行に来たシヴァ神と恋に落ちてヒマラヤのカイラス山を宮殿で暮らし始めた。

そんな折、地上界は北インド、コーサラ国のバギラータ王は憂えていた。というのも、王室の祖であるサガラ王の6万人の王子たちが、カピラという偉大な聖者に対し礼を失したことで灰にされ、清められることなく地下に閉じ込められていて、未だ安らぎを見出せずにいたからだ。
バギラータ王は、神聖ガンガーを地上に迎えてその清浄な流れに王子たちの灰を流すことによって、彼らを昇天させたいと発願したのである。王は、治政を側近に托して出城、バラモンの苦行に入った。

やがて彼の行いは創造神ブラフマー心に適うこととなり、ブラフマー神はガンガーに天上界から地上界に降下するように説得した。
ガンガーはそれを了承したものの、天上界を流れるガンガーがただ無策に地上に流れ落ちては、地上はひとたまりもない。そこでこの強力な流れを受け止めることが出来る者が必要だと言った。そしてそれは破壊と再生の神シヴァ以外には無理であろう、とも。
そこで王はさらに苦行に励み、シヴァ神に願った。シヴァ神はそれをよしとして、ガンガーを頭で受け止めることとなる。
しかしガンガーは、シヴァ神でも自分のこの激しい勢いを受け止めることは無理だろうと考え始めていた。
一方シヴァ神は、才色兼備のガンガーの自惚れに教訓を与えてやるチャンスが到来したと直感した。
シヴァ神の頭上に到達したガンガーは、シヴァ神の頭髪の中を旋回し押し流してしまおうと全力を尽くしたが、いかんせん女の力ではシヴァ神に及ばず、毛髪の中から一滴も外に漏らせないまま。それを見たバギラータ王は憂慮し、さらに苦行に励んで、シヴァ神に対して、いくばくかだけでもガンガーの水を地上に下されることを願った。
シヴァ神はその誠意ある心がけに感応し、結局は頭髪の生え際からガンガーを再生させ、ヒマラヤ山系のヒンドゥーサーロジというところから7通りの水路に分水させてガンガーの勢力を分散させ、バギラータ王の治めていたコーサラ国で再び合流させたのである。
これ以来ガンガー女神も自惚れることなくなり、謹み深くより洗浄化され、その流れのしぶきは、白銀の如く舞い踊りそして歌い、人々を浄化しまた大地も清浄化して、聖なる川として悠久にヒンドゥースタニーの世界に公明を与えてきたのである。
バギラータ王は、浮かばれぬ精霊(しょうりょう)のための儀式を盛大に催し、ガンガーの美しくも清浄な流れに灰を託したので、王子たちは清められて天上界・極楽界へと昇天して行ったのだった。
このバギラータ王の行事が盂蘭盆の精霊流しの起源であり、日本でも目蓮尊者の母堂供養の仏教説話をして古くから伝わっている。

インドのヒンドゥー教徒たちは、一生に一度でいいからバラナシに来て、聖なるガンジス河の流れで沐浴し、亡き人々の霊魂と共に自身の心身の罪障を消滅して、出来ればこのガンジスの岸辺で現世を終わって、死後の灰を少しでもガンガー女神の流れに託したいと願う。それは、ガンガーの水で浄化されることによってのみ昇天できるといる伝承を信じているからである。
古代の神話が、現在でも生活の中に連綿と生きている。これはインドの大いなる神秘でもあり特徴でもある。